シフトフィーリングも自己管理が基本!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これもちょっと前、今年初めのハナシ……650RS W3のシフトチェンジペダルのリターンスプリングが折れて変な感じになりました……シフトアップではペダルがちゃんと元の位置に戻るのですが、シフトダウンでは戻ってきません。なので、ペダルを踏んでギアを落としては、ツマ先でペダルをちょっと上げてまた踏むの繰り返し。今のオートバイではまず起こらないことが起こったのですが、それを旧車の宿命と言ってしまえばそれまでなんだけど、だからと言って頻繁に発生するトラブルでもない気もするわけです。実際のところ、僕がW3に乗り出して10年、走行9万キロを超えてのトラブルなので、むしろよく持った方なのかもしれません。

 

ダブワン系のトランスミッションはご存じのとおり、英車同様の“別体ミッション”で、クランクケース&シリンダー、プライマリーケース(&クラッチ)、トランスミッション(別体ギアボックス)の3つのケース(部屋)が独立したエンジン形式です。プライマリーチェーン→クラッチを介してミッションのメイン(インナー)シャフトに伝えられる駆動力は、一度カウンターシャフトのギヤ各段に伝え、そしてメイン(アウター)シャフトの各段相手となるギアに駆動力を戻すカタチで伝わる仕組み。そしてメインのアウターシャフト左端に装着されたドライブスプロケットによってチェーンを駆動します(4速のみメインのインナーとアウターが直結駆動)……昨今のエンジンの一体式ミッションより1軸多い(通常はカウンターシャフトにドライブスプロケットが装着される)のですが、メインのインナー&アウターは同軸のため大きさ(コンパクトさ)は2軸構成と変わらないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、じつは今回のようなスプリング欠損はギアボックス内部ではなく、さらに外側の部屋の出来事。プライマリーケースやクラッチをバラして、ギアボックスそのものをシャシーから下ろしてまでの修理ではありません。右側のギアボックスカバーを外すと、メイン(インナー)シャフトのさらに中心を貫通するクラッチプッシュロッドとともに、何やら“カニの爪”のようなパーツがあります……マニュアルでは“シフト爪”、パーツリストでは“チェンジポール・レバー”、僕ら(?)は“カニ爪”と呼んでるこのパーツは、内部の常時噛み合い式ギアを右に左にスライドさせるシフトフォークを動かすシフトドラムを回す役割。ドラム右端にある5本のピンを、カニ爪の先端部で上げ&下げすることでドラムを回し、ギアを送る仕組みだ。このカニ爪の裏側にシフトべダル・リターンスプリングがあって、カニ爪の下にあるストッパーを挟んでいる足の片方が折れたのです。

ギアボックス中には、このカニ爪リターンスプリングと、キックアームのスプリングの2つがあり。これらが折れることがわりとあるのだが、経年劣化、しかも幾度となく伸縮されたからというより、酸化による劣化で細かなクラック・亀裂が入って脆くなっている場合が多い。

交換はカニ爪シャフトを取り、裏のナットを緩めてシャフトとカニ爪をバラして交換。スプリング類を長持ちさせるには、シフトペダルやキックアームを弾くように操作せず、最後(=操作を終えて元の位置に戻す)まで“置く”ように丁寧に扱うこと。弾いた衝撃が致命傷になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このスプリングの交換自体は簡単なのだけど、じつは重要なのがセット位置の調整……カニ爪の間にちょうどチェンジポールなるシフトドラムのピンが2本入ってくるのだが、このピンとカニ爪先端との隙間(距離)がどちらの爪からも均等になってないと、アップとダウンでチェンジの感触が大きく違ってきて、下手をするとカニ爪の送りが足りずに、シフトドラムが回り切らなくてアップ(or ダウン)が完了せずにギア抜けを起こしやすくなるのです。その位置を決めるのがスプリングの足が挟んでいるストッパーピンはエキセントリック(偏心)になっているので、これを回しながら均等な隙間に調整するのです。

カニ詰の先端とピンとの隙間(図の中のa)が均等でないとシフトタッチがアップ/ダウンで違ってくる。ヒドイ場合には1度の操作でシフトを送り込めない場合が生じる。

カニ爪リターンスプリングの足2本が挟み込む、このセットピンはエキセントリック(偏心)で、回すと2本の足のセット位置が変わり、同時にカニ爪先端の隙間が変えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このカニ爪調整には2つのポイントがあって、ひとつは3〜4年ほど前、ダブワン仲間が集まる“W1工房・厚木基地”での整備大会で、ギアが入らなくなったSAの修理を主宰の関根師匠が始めたときに「カバーがないから、カニ爪シャフトがグラグラするので慎重にね…」とのアドバイスがあって、僕が「誰でも一発でできるように、治具があったらいいなぁ」なんて言ってたら、基地メンバーの山賀センパイ(W1Sを2台所有)が翌週に早速作ってしまった。この“ヤマガプレート”のおかげで、ギアボックスカバーを装着しなくてもシャフト位置がブレることなく偏心ピンを回せるようになったのです。なのに、うまく調整したつもりがなんだかイマイチ……すると(2つ目)、セミトラ製作の有名人・通称マキトラ牧さん(W1SA所有)が「モリヒデ森さん(ダブワン界の超重鎮・W1Crazy’s工場長)が“SAやW3はSの場合と違って、チェンジリンクの重みがカニ爪シャフトにかかってくるから、リンクを仮装着してやらないと位置が変わってきちゃうよ”だって」……おかげさまで、それ以来一発でキメ羅れるようになったのです。

この調整で威力を発揮するのが通称“Yプレート(ヤマガプレート)”……W1工房厚木基地の第1期卒業生にして一番弟子の山賀さん(W1Sを2台所有)がご自身のお仕事を生かして制作したカニ爪調整用治具。このおかげで、ギアボックスカバーを付けることなく正確な調整ができる。

今年2月9日のWエスト会八王子ミーティングの帰り。photo by Dandy NARUSE、慌てて走り出したら、サイドバッグのストラップを閉め忘れて、傾いてます。皆様もお気をつけあそばせ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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