[KZ1000]4気筒1000ccといえども“軽快”に動かしたいワケで。その1

2018年1月にアメリカから到着したKZ1000。当初ガソリンタンクは細身なLTD用でシートカウルはZ1タイプ、そしてサイドカバーはない状態。そのためか、いわゆるZのイメージよりもずいぶん軽快な印象でした。

2018年1月にアメリカから到着した1977年のKZ1000。なにしろ初めての旧車、初めての4気筒、初めてのカワサキZ……というわけで、最初の1年は調子が良いかどうか? もよく分からなまま何度もキャブ調整を繰り返し、挙句、腰上オーバーホールと……旧車を手に入れた多くヒトが通る(!?) 道をしっかりと辿りました。丸ごとショップにお願いすればスムーズに進んだのでしょうが、おかげで時間はかかりましたが純正VMキャブレターからエンジンまで……ある程度仕組みと構造を理解することができました。

旧車の世界では納車後の半年〜1年間くらいを“膿出し”なんて表現をするヒトもいますが、意外とオーナー(ライダー)の膿出し期間でもあったりしますよね。旧車の扱い方、乗り方がわかっていない結果、ライダーのせいで調子を崩してしまう……なんてこともザラです。僕も思い当たるフシはいくつもありました(笑)

陸運局での素人による初めての新規登録……書類の不備等、当然1回じゃ済みません。

アメリカから到着後、スロットルの開け始めでグズつく……とキャブを外しジェット類を清掃。なんとかなるだろうとバラしたはいいけど、ジェットニードル&スライドバルブの脱着もしているのに同調も取らない始末。なんせこれまで“同調”とは無縁のシングルキャブのH-DとインジェクションSRでしたからね。これまで何度キャブの脱着をしたかわかりませんが、おかげでスムーズにキャブレターのOHができるまでになりました(笑)



さて、こちらはKZ1000のクランクシャフト。900ccだったZ1からの大きな変更点は100cc+αの排気量UP以上に、約2kgほど重たくなったクランクの重量でもありました。クランクシャフト自体が重たくなったことで、よりトルクフルになり低中速では扱いやすいZになった上に、高速巡航性能も飛躍的にUPしたワケですが、これまでH-DとSR、他にはオフローダーしか乗ってこなかった僕にとっては、その魅力以上に“ある違和感”がありました。それは直列4気筒エンジンの“横に長い”=“幅の広い”クランクシャフトが感じさせる鈍重さ

 


オートバイの中でもっとも重たいパーツはエンジン。そのなかでも重たいのは当然クランクシャフトです。ボア×ストロークにフライホイールやバランサーの形状、そして重量など……“どんなクランクシャフトか”!? で、そのエンジンのフィーリングは大きく変わりますが、クランクシャフトが車体やハンドリングに与える影響もこれほど大きかったのか!? とは、KZ1000に乗りあらためて驚かされたことでした。


[左]がYAMAHA SR500のクランク。[右]がH-D ショベルヘッド(S&S)のクランク。

というのも、これまで乗ってきた単気筒のSRは、当然クランクシャフトの幅はスリム。H-DもVツインのため“横幅=長さ”という意味ではシングルと同様にスリムです。


この写真はKZ1000のクランクシャフトとエストレヤ(250cc)のクランクシャフトを並べた写真。注目して欲しいのはクランクシャフトの幅=長さの違い。この時は、KZの1気筒=約250ccということで同じカワサキのエストレヤのクランクシャフトと撮りましたが、“クランクシャフトの長さ”という意味では、SRもVツインハーレーもエストレヤとさほど変わりません。

 


こちらはおじさん世代にはおなじみの“地球ゴマ”。軸に付く円盤が回転することで、外からチカラを加えないかぎり“回転方向に安定する”=“一定の姿勢を保とうとする”ジャイロ効果(慣性力)を手軽に体感できる、いわゆる「地球が自転により安定しているのはこーゆーことじゃないか!?」的な発想から生まれた昔ながらの玩具。

そんな地球ゴマが編集部に常備してある理由は、クランクシャフトの回転によるジャイロ効果を知るためです。写真のように、両端を指で押さえ円盤を回転させると、回転方向(オートバイの進行方向)に対して“そのままの姿勢を保とう”とする安定感を感じるとともに、円盤を左右(円盤に対して90度方向)へ傾けようとすると、それに対しては強い抵抗も感じるのです。

つまり、気筒数に関わらずオートバイの中でもっとも重たいクランクシャフトが回転していると、走行中はそれだけで進行方向への安定成分を発揮しているということ。当然、回転スピードが速くなればなるほど、そしてクランク(=地球ゴマの円盤)が重たければ重たいほど安定成分は増していきます。

では、回転するだけで進行方向に対して安定成分を発揮するクランク(=地球ゴマの円盤)が、横に幅広くなったら(=地球ゴマの円盤が4枚になったら)その安定成分はどうなるのか!? もうおわかりのとおり、その分、安定成分は増すことになります。いわゆる「やじろべえの腕が長ければ長いほど、やじろべえは倒れにくくなる」と同じ。

この安定成分は、直進安定性やオートバイそのものの安定感にも寄与するワケですが、一方でオートバイを左右に傾けようと思うとその安定成分がジャマをするのです。そこでメーカーはこの安定感と軽快感のバランスを追求し、エンジンを積む位置を数ミリ単位で調整したりもするわけです。たとえば同じ2気筒エンジンでも並列、V型、L型、水平対向等、さまざまな構造があるのも、そのオートバイにおける安定感と軽快感のバランスにおいて何が最適かを探っているから……ともいえるのです。当然他の要素もありますが……。


直列4気筒1000ccエンジンのKZ1000。当然、カワサキもZ1開発時からスポーツ性とツーリングバイクとしての魅力を両立させるために、エンジンだけじゃなく車体に関しても試行錯誤をしてきました。今となっては40年以上前の旧車なので、当時のZらしさをそのまま味わうことも旧車ならではの楽しみ方ですが、SRやH-Dに乗ってきた僕としては「もうちょっとでいいから」軽くヒラヒラと動かせるKZ1000にしたいと思ったワケです。

まぁカンタンに言えば、もっと普段から気軽に乗りたいと思える1000ccのオートバイにしたいというのがネライです。

次回へ続く。

 


ちなみに、地球ゴマの向きを、写真でいえば人差し指をオートバイの進行方向と設定してみると……BMWに代表される水平対向エンジンの縦置きクランク……ということになります。すると、回転数が上がってもあら不思議!? 左右へは軽快じゃありませんか!! そんな縦置きクランク・エンジンの魅力の片鱗も地球ゴマでちょっと想像できるようになりますヨ。