[SR500F.I.]インジェクションモデルの燃料タンクの内部構造。FIタンク→旧ナロータンク加工。

[左]1978〜’84年までの初期ナロータンク。[右]2010年のFIタンク。※形状は’85年以降と同じ。ちなみに容量は初期ナロータンク:12L、’85〜2008(キャブ):14L、2010〜(FI):12L(内部構造変更により容量減少)。

2010年にインジェクション化したSR400。外観はほぼ変わらないまま登場しましたが、キャブレターからインジェクションへの変更に伴い、じつは大きく変わったのが燃料タンクの内部構造でした。ずいぶん前にストバイ誌面で展開した記事ですが、今でもよく質問されることであり、あまりタンクの内部を見る機会もないと思いますので、当時の大工事の模様をあらためてご紹介。

奥がキャブレターモデルのガソリンタンクの下側。手前がFIモデルのガソリンタンクの下側。FI用のタンクには2本の燃料の“戻り”用の管と残量警告灯のセンサーの取り付け口、さらに前方には圧(エア)抜き用の丸い弁が追加されている。

つねに一定の圧力で燃料が噴射されるインジェクションは、燃料はタンク→フューエルポンプ→要求された必要な燃料をインジェクターから噴射→余分な燃料はタンクに戻る、という循環式。そのため、インジェクションモデルからタンクの中に2本の燃料“戻り”用の管が追加されました。その他には、手前に見える燃料コック用と似ている穴は残量警告灯センサーの取り付け口(燃料コックはこれまで通りの位置)、タンク前方には圧(エア)抜き用の丸い弁が追加されました。FIの場合、圧力とともに燃料が戻ってくるため、従来のタンクキャンプでのエア抜きだけでは足りなかったんでしょう。


もう一度“分割前”に戻りますが、上から見るとキャブレター時代(’85〜’08)と変わらない形状でしたが、裏から見ると色々と追加されているのが分かります。中身を見た後だと追加されたそれぞれの意味がよく分かります。ちなみにFIモデルからタンク裏側のオイルタンクを兼ねたバックボーンと接する部分に断熱材が追加されました。FI乗りの方はピーンとくるかもしれませんが、圧力とともに燃料が循環しているため、長時間走行していると、外から触っても分かるほどじつはタンク内のガソリンの温度は高くなっています。断熱材の追加はその熱がオイルタンクに影響を与えないための配慮。つまり「何だコレ取ってしまえ」はご法度です。

黒と赤のタンクが混ざってますが、FIモデルが発売されたばかりの当時、加工をお願いしたBRAT STYLEさんにはヤマハヨーロッパからのカスタム依頼もあったため、同時にふたつの純正FIタンクを分割しておりました。

さて、また“分割後”ですが、こちらはタンクの上下を分割した“上側”。つまり左の初期ナロータンクの“上側”とFIタンク“下側”を組み合わせるというカスタムです。
まずは初期型と幅/長さが異なる燃料コックをFIタンクから初期ナロータンクに移設。



全体の溶接前がこちら。


まるで純正タンクのように見せたかったため、できる限り“リブ”を残して欲しいとオーダーしましたが、薄い鉄板の溶接でリブを残すのは至難の技。「多少、波打っちゃうよ」と言いながらも、キレイに仕上げてくれたブラットスタイル高嶺さんの技術の高さは相当なモノ。現在、東京・赤羽とアメリカ・カリフォルニアに店舗を持つBRAT STYLE。レーシーでワイルドな雰囲気に目がいきがちですが、細部にわたる丁寧な仕上げは職人の領域です。


[左]加工前の2010年式“FI”タンク。[右]初期ナロータンクの“上”とFIタンクの“下”が合体し塗装も終了した状態。

「ヤマハが発売したような純正感」がテーマでしたので、塗装の色合いは2010年式の純正カラーを採用。ペイント作業はメーカー純正カラーの塗料を数多く揃える浜松第一塗装さんでお願いしました。見てくださいこのメタリック感、ほんと純正に負けないクオリティです。



というわけで、無事、自然にナロータンクを付けたFIモデルになったワケです。あれから9年くらい経つでしょうか? おかげさまで加工した部分の破損も塗装の劣化もありません。