[SR500F.I.]インジェクションSRのフューエルポンプ交換。


“フューエルポンプ”……多くのオートバイ乗りのヒトにとって聞き慣れない部品だと思います。ピストンの上下運動による“負圧”で混合気が吸い込まれるキャブレターと違い、FIモデルは負圧で吸い込まれるのは“空気”だけで、燃料はその都度コンピューター制御により“要求された量”だけ“噴射”される仕組み。その“噴射”に欠かせない部品のひとつが“フューエルポンプ”です。今回ワケあってSRのフューエルポンプを交換したので、あまり見ることのない細部をご紹介します。


ことの発端は、11月下旬に千葉で行われた「メグロミーティング」へ向かう途中に、突然SRが不動になったこと。信号待ちしてたら突然ストンッとエンスト。その後、何回キックしてもエンジンはかかりません。疑うべき箇所は、バッテリー、プラグ、プラグコード、イグニッションコイル辺り!? でしょうか。バッテリーは半年前に交換したばかりだしインジケーターランプもしっかり点灯している。プラグレンチを持っていなかったので、プラグから火が飛んでいるか目視することはできませんでしたが、プラグもバッテリー同様、半年ほど前に変えたばかり。プラグコードとイグニッションコイルは3年ほど前に交換済み。どれも電気部品なので100%問題ないとは言い切れませんが、10年間のあいだにこれらの部品が突然ダメになった経験はないため、どれも可能性は低いでしょう。

おかしいなぁ……と思いながら、一度キーをOFFにし、再びON。すると、キーONでフューエルポンプから聞こえる、正常に作動していることを表す「ピー(ジー)」という電子音が聞こえません。こうなるといくらキックをしても肝心の燃料が噴射されないため、エンジンは一切かかりません。以前、フューエルポンプ系統の配線が短絡した時も同様に電子音が鳴らなくなったため、配線の短絡も疑いましたが、以前の短絡以来、徹底的に配線もチェックしたため、把握しているかぎりではありますが怪しい箇所はない。ヒューズも全て無事……となると、フューエルポンプの故障? いやそもそもフューエルポンプって故障するの!? なんて、アタマを巡らせながらレッカーとともに編集部へ帰ってきたのでした。


フューエルポンプを疑ったもうひとつの理由はレッカーに来てくれた運転手さんとの会話。二輪ではまだインジェクションはそこまで一般的じゃありませんが、街を走っている四輪は30年以上前からほとんどがFI車です。そこで年間、何万キロも走る運転のプロ、レッカー屋さんにフューエルポンプの故障について聞いてみたところ、「フューエルポンプは消耗部品ですよ。一概には言えないけど、10万キロを超えるクルマでフューエルポンプが故障したことは何回もありますよ」と。当然、ひとつの事例に過ぎませんので、“参考”としての情報でしかありませんが、僕のSRは2020年で丸10年。走行距離も10万キロを超えた辺りなので、「もしや…」と疑ったというワケです。


左サイドカバーの内側に収まっているフューエルポンプは、外側の黒い“フューエルポンプ・ケース”と内側の白い“フューエルポンプ”に分かれます。

[左]10年10万キロ使用のフューエルポンプ [右]新品のフューエルポンプ

ちなみに上の写真が、古いフューエルポンプ(左)と新品のフューエルポンプ(右)。フィルターはそれなりに汚れていますが、ケース内部も含め割ときれいでした。ちなみにフューエルポンプ・ケースもフューエルタンクと同様、停車時でも常に燃料が入っているので、ガソリンが腐ってしまうほど放置していると、フューエルポンプ内部も錆をはじめ相当汚れてしまいます。キャブ車ではキャブレターのOHが必要になるのと同じように、FI車ではフューエルポンンプの交換が必要になってしまうので、たまにエンジンをかけることはキャブ/FIに関わらずやはり重要ですね。


FIモデルのガソリン経路を確認しましょう。ポイントはFI車は「送り側」「戻り側」の2経路あるということ。


「送り側」は、まず燃料はガソリンタンク→ガソリンコックを経て、ケース外側からフューエルポンプ・ケースに入ります。


フューエルポンプ・ケースに入った燃料は、フューエルポンプのフィルターを通ってフューエルポンプ内の経路に入ります。※写真左のケース上部に見える経路は、後ほど説明する「戻り側」の経路のひとつ。


フィルターを通った燃料は内部のモーターの力でフューエルポンプの下に付く出口からフューエル・インジェクターへ圧送され、その後コンピューター制御によりその都度要求された量だけエンジン(インテークマニホールド)に“噴射”されます。

上の図で、インジェクターの下に“プレッシャー・レギュレーター”とありますが、この部品はその名のとおりインジェクターに供給される燃圧を一定に維持する役割。四輪の世界ではこのプレッシャー・レギュレーターの燃圧を高くして、インジェクターから噴射される燃料の“霧化”を促進させるパーツもあるようですね。


次に「戻り側」ですが、まずは上の写真をご覧ください。どちらもSRの純正タンクの内部ですが、手前がFIモデルで奥がキャブレターモデル。FIモデルから内部に2本の管が追加されていますが、これが燃料が「戻る」2つの経路の出口です。


ひとつ目の経路は、フュエルポンプ・ケースの上部からそのまま燃料タンクへ戻ります。もうひとつはプレッシャー・レギュレーターから不要だった燃料がフューエルタンクに戻ります(フューエルポンプからは常に一定の燃料が圧送されますが、インジェクターから噴射される燃料はコンピューター制御によりその都度違うため)。タンク内部の2本の管は、この2種類の「戻り側」の経路。

ちなみにFI車で長時間走っていると、フューエルタンクが少し“熱く”なってくると思いますが、これはプレッシャー・レギュレーター側から“圧力とともに”燃料が戻ってきているため。そのため、通常フューエルタンクのエア抜きはタンクキャップからだけですが、FI車からはタンク前方に圧抜きの弁が追加されましたね。

 


さぁ、これで修理完了! と思いきや、まさかの症状変わらず!!??

その後、落ち着き確認しやすい箇所からチェックすると、原因はなんのこっちゃない、バッテリーの死亡でした。半年前に変えたばかりなのに〜!! 悔しい!! ぼちぼちフューエルポンプも交換時期だったということでヨシとしましょうか。