[SR500F.I.]フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!? その1


先日SRのフロント・ブレーキキャリパーのオーバーホールをしました。


いつも交換するたびに「ハッ」とさせられるブレーキパッドの減り具合とブレーキフルードの劣化具合。ブレーキ関連は毎度「そろそろチェックしないとなぁ」と思っているわりには、つい後回しにしてしまう部分。案の定真っ黒だったフルードを見て「前回のフルード交換いつだったっけ? 」となる始末。

マスターシリンダー内のフルードはティッシュで吸い取り、ホース内のフルードはキャリパー側から抜くと作業は少し楽チン。

左列の分厚い方がピストンシール。右列の薄い方がピストン・ダストシール。2種類あるピストンの大きさに合わせ、上段の方が直径が大きいのですが、スミマセン……写真の撮り方が悪くわかりずらいです。

さて、今回の作業の目的はこちら。

これ、キャリパー内部の部品ですが、いったい何の部品かわかるでしょうか? 僕は以前交換するまで、ブレーキ・キャリパーの中にこんなゴム製パーツが入ってるとは知りませんでした。SRのフロントブレーキはキャリパー・ピストンが2つですが、大小2種類の輪っか状のこの ゴムパーツは、キャリパー・ピストンが収まる円筒状の筒の内側に、それぞれ2つずつ入るのですがいったい何のためなのか!?

パーツ名は、厚みがある方がピストンシールで、薄い方がダストシール

ちなみに……

[マニュアルによるそれぞれの推奨交換時期]
ブレーキフルードの交換:2年毎、又はブレーキ分解時。
ピストンシール&ダストシール:初回5年目、以降4年毎
ブレーキホース:4年毎
ブレーキパッド:交換必要時

僕のSRの場合……記憶ではブレーキフルードは4年前に一回、ブレーキホースは納車後7年目くらいに交換、シール類は一度交換してからもう7〜8年!? 経ってる頃でしょうか。それほどシビアになる必要はないかもしれませんが、もう少し気をつけてもいいですね…。

 


フロントフォークからブレーキキャリパーを外し、キャリパーからパッドを取り外した状態。この状態ではピストンシールとダストシールは見えません。


2つのキャリパーピストンを抜き出して初めてお目見えするシール類。


2種類のシール、手前からダストシール、奥にピストンシールが収まっているのがわかるでしょうか?


さらにグッと寄ります。
キャリパーピストンが収まる筒状の入り口付近に、それぞれのシールが収まる“溝”があり、各シールはそこに収まっていました。

さて、問題はこのシールの役割。ダストシールはその名のとおり、パッドの粉や、チリ、ホコリ等のキャリパー内部への侵入を防ぎ、同時にブレーキフルードの漏れを防ぐ役目。では、厚みのあるピストンシールはいったい何をしているのか!?


ブレーキレバーを引く(ブレーキをかける)と、その油圧でキャリパー内のピストンが押し出され、ブレーキパッドがブレーキディスクを挟み、パッドとディスクの間に発生する摩擦熱で制動力を発揮するディスクブレーキ。

では、ブレーキレバーを離したと同時にブレーキパッドがディスク板から離れるのはどうしてか!? じつは、これまで考えたこともなかった“この部分”こそ、ピストンシールの役割・仕事だったのです。

 

※イラストの手がピストンだと想像してください。[左]が、ブレーキをかけていない(油圧でピストンが押し出されていない)時のピストンシール。[右]が、ブレーキをかけた(油圧でブレーキピストンが押し出されている)時のピストンシールの状態。

ピストンシールの役割はなんと!? 油圧で押し出されたピストンを元の状態に“戻す”コト。それもゴムそのものがもつ特性だけで!!

上のイラストはタイヤの剪断剛性を説明するために、以前誌面で使用したモノですが、原理は同じ。[左]が、ブレーキをかけていない(油圧でブレーキピストンが押し出されていない)時のピストンシール[右]が、ブレーキをかけた(油圧でブレーキピストンが押し出されている)時のピストンシールの状態。※イラストの手がピストンだと想像してください。

つまり、ブレーキをかけている時=油圧でピストンが押し出され、ブレーキパッドがブレーキディスクを挟んでいる時、ピストンシールは[右]のイラストのように“変形”していたのです。


[補足]
ピストンシールの剪断剛性によって、元の形状に復元する力を利用してピストンを引き戻す作用を、専門用語で“ロールバック”といいます。ブレーキメーカーはこのロールバック特性を徹底的に研究していて、よく知られる“ブレンボ”などはそのあたりの技術が優れているので、世界の各方面で愛用されてきた歴史があるのです。このピストン引き戻し作用にはゴム質以外にも、シール溝の断面形状やヘリ部分の面取り形状なども影響するので、各社の個性をも左右するトップシークレットなわけです/YAS

ゴムに限らず、物体が変形するとき、縦方向は「伸び縮み」、横方向に変形する(ズレる)ことは「剪断(せんだん)変形」と呼ばれますが、特に変形(ズレ)が生じやすい物質のゴムは、このせんだん剛性が特性を測る指標のひとつとされる……ワケですが、

引っ張った輪ゴムを離したらパチンッと元に戻るように、ある力によって変形( ズレ)したゴムが“元の状態に戻ろう”とするのはわかるケド……わずか5ミリ程度のピストンシールが、ブレーキをかける度に“せんだん変形”を繰り返していた!? なんて想像すらしませんでした。

で、ようやく本題。ピストンシールの弾性が落ちていたら? 当初の状態よりも固くなっていたとしたら? はたまた新品に交換したら? いったい何がどう変わるのか!?

結果は、いや〜効果絶大!?

というわけで、「フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!?」その2に続く。