[SR500F.I.]フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!? その3

■ピストンシールの動き/役割(剪断変形)を表した簡易イラスト。[左]ブレーキをかけていない(油圧でブレーキピストンが押し出されていない)時のピストンシール。[右]ブレーキをかけた(油圧でブレーキピストンが押し出されている)時のピストンシールの状態。※イラストの手がピストンだと想像してください。
つまり、ブレーキをかけている時=油圧でピストンが押し出され、ブレーキパッドがブレーキディスクを挟んでいる時、ピストンシールは[右]のイラストのように“変形”しているということ。

ピストンシールの剪断(せんだん)変形によって、油圧で押し出されたピストンを元の位置に戻すピストンシールの“ロールバック”作用。要するに、この作用が7〜8年使用した(マニュアルでの推奨交換時期は4年毎)ピストンシールを新品に交換すると“どう変化”するのか!? が、今回の楽しみな部分。その1からずいぶん引っ張りましたが、ようやく本題。

その1は→コチラへ。

その2は→コチラへ。

 

左列の分厚い方がピストンシール。右列の薄い方がピストン・ダストシール。

幅・厚みはわずか3mm程度のピストンシール(左側)。ピストンシールの役割を理解したとはいえ、キャリパーから外したピストンシールは見た目や手触りでは明らかにゴムが劣化・硬化した印象はなかったため「ホントに何か変わるの!?」と半信半疑。ところが、ピストンシール交換後の試乗ですぐに違い・変化を実感できたのです。

※写真でわかりやすいように素手で3本指で握っているだけで、こう握りましょう的な意味ではありません。

と、ここで重要なのが「ブレーキのかけ方」
たとえば信号で止まるとき。はじめはジワ〜っとかけ始め、停止する最後に強く握る……そう操作しているヒトも多いんじゃないでしょうか。いや、僕も長いあいだそうでした。いわゆるクルマで言うところのカックンブレーキ。停止する最後にブレーキペダル強く踏んでしまうと車体がガックンとなるアレです。オートバイの場合はリアブレーキも使うので、さすがに停止時にガックンとまではなりませんが、操作の仕方、そして頭で考えるブレーキのかけ方という意味では、僕もずっといわゆる徐々に強めていくカックンブレーキ側でした。しかし、これがそもそもの間違いで、正しい(不安・恐怖を感じない)ブレーキ操作の順序としてはまるで“逆”だったのです!?

以前のブログ→抜き側でブレーキを使うでも書きましたが、覚えているヒトはいないと思いますので簡単におさらい。

 
数年前に社外のアップハンドルに合わせて付けていたメッシュホースから、ゴム製のカワサキW650用純正ブレーキホース(アップハンドル仕様)に変更した理由が、まさに「抜き(離し)側でコントロールするブレーキ」の使い方をマスターするためでした。ちなみにこのブレーキホース、SRの純正500用アップハンドルにジャストフィットです。

ブレーキホースをステンレスメッシュからゴム製に変更する最大の理由は、ブレーキのレスポンスを遅くすること。言い方を変えると、ブレーキレバーのストローク量(レバーの遊びがなくなりブレーキが効き始めたトコロから、フルに握るまでのレバーの動く量=距離=時間)を増やすことが目的。メッシュホースからゴムホースに戻すと、当然ながら効き始めからしっかり効くまでの時間(レバーの動く量=距離)が、メッシュホースに比べて“増える”ワケです。ゴムホースに戻す理由は、その“時間”が欲しかったから。フツーはレスポンス向上を求めてゴムからメッシュに、が一般的ですけどね。

 


最初に強くかけ、徐々に緩めて(離して)いくブレーキング。

コーナー手前での減速。これまでどおりの“徐々に強めていく”ブレーキングでは、どうしてもフロントタイヤに荷重が残り、それがそのまま不安や恐怖に変わる。じゃあもっと手前でブレーキングを終わらせてしまえばいいとなりますが、それでは減速し過ぎてしまったりタイミングが合わなかったり……ところが!? この“抜き(離し)側のブレーキング”をマスターすると、そんな恐怖や不安からすっかり解放されたのです。

ブレーキのかけ始めでしっかりとレバーを握り、コーナーに差し掛かる辺りではレバーを離していく=徐々に緩めていくブレーキング。速度調節という意味では同じなのに、これまでとはっきり違うのは、フロントタイヤにかかる荷重が徐々に抜けていくこと。 ブレーキのかけ方を“逆に”するだけで、恐怖感がなくなったのことにはずいぶんと驚かされました。


ですが、この“離し側のブレーキング”……最初にガツンッと強くブレーキをかけることが、慣れないうちはとにかく怖い。以前、鍛錬特集をしたストバイでもお伝えしましたが、操作に慣れるまではコーナーではなく直線でひたすら練習。通勤途中の赤信号で止まるところから始めたものです。


つまり、ステンレス・メッシュホースだと、レバーをフルに握ってから徐々に離していく緩めていくまでの時間=距離=レバーの動く量あまりにも少なく、まだ“離し側のブレーキング”に慣れていない僕が練習するには難易度が高かったのです。そこで、練習のためにあえて膨張によるレバーのストローク量=動く距離=時間が増えるゴムホースに戻してみた……というワケでした。当然、慣れればストローク量の少ないステンレス・メッシュホースでも“離し側のブレーキング”は可能です。

スポーティに走ることや上手に走ることにおいて、性能が良いパーツに変えることも重要なポイントだと勝手に思っていましたが、一つ一つの操作にゆとりがあることも、仕組みや構造を知り、感じるには重要だった!? とは目からウロコでした。


そして!! いやようやく!? ここで登場するのが新品に変えたピストンシールによる変化と効果。なんと、この徐々にブレーキングを緩めていく時の実感がこれまで以上に“はっきり”と増えたのです。


どういうことかといえば……まるでレバーを離していくと同時に、ブレーキパッドがディスクローターから徐々に離れていくのがわかる!!……ような感覚。またその伝わってくる実感が驚くほどきめ細やか。

例えば……ノーブレーキ=ピストンシールが変形していない状態を0(ゼロ)フルブレーキ=ピストンシールが最大に変形している状態を10だとします。

7〜8年使用したピストンシールがその変形度合いを5分割で伝えてくるとしたら、新品のピストンシールは10分割の緻密さでその変形度合いを伝えてくる感覚。ピストンシールのゴム自体がずいぶんと柔軟で緻密に変形しているのが見事に伝わってくるのです。

ブレーキのかけ始め、緩め始めの、ほんのわずかな「強めた」「緩めた」という、レバーの握り具合がそのままオートバイへ反映されているのが実感をともなってはっきりと伝わってくるため、より細やかなブレーキコントロールがしやすくなったのです。

 

こうなると……“離し側のブレーキング”のさらなる利点がより利用しやすくなり、グッとコーナリングが楽しくなるのですが、それはまた次回。

鍛錬や練習というとストイックですが、ブレーキのかけ方ひとつで、また長いあいだ楽しめるからオートバイはやめられません。