2010年にSR400がインジェクション化された後、少ししてからクラッチが話題になりました。ある車種で、しかも最新技術が搭載されたわけでもないクラッチが話題になるなんて後にも先にもこの時くらいじゃないでしょうか。SR乗りの方はもう耳タコだと思いますが、この時の話題の主役は“クラッチスプリング”。
SRが誕生した1978年(もっといえば’76 XT500)から500/400共通でずっと変わらなかったクラッチスプリング[右/長い方]が、2010年のFI化とともに部品が[左/短い方]へと変更されました。SRのクラッチスプリングは全部で6個。組み付け時にはスプリングを挟むボルトを最後まで締め込みますが、従来の[右]長い方のスプリングだとどうやらプリロードがかかり過ぎていたようです。それがFI化とともにスプリングが見直され(線径は同じように見えますが鋼材の違いは不明)、要するにプリロードがかかる量が減ることで、クラッチ操作が“軽く”なり、キャブレターモデルに乗る多くのSR乗りがFI用スプリングに変えたことでちょっと話題になったのでした。
面白いのはここからです。クラッチは軽いに越したことはない……とは誰でも思う事かもしれませんが、たまに見かける、信号待ちの間ずっと1速に入れた状態でクラッチレバーを握り続けているヒトの言う「クラッチは軽い方がいい」話は、今日の本題ではありません。
クラッチ(スプリング)の役割は、全開時でもクラッチが滑ることなくエンジンのパワーをミッションを介して後輪に伝えることですが、要するにメーカーの判断としてはインジェクション化したSR”400″に関しては、“それまでのスプリング”はオーバークオリティだったというわけです。つまりトルク/パワーに対してクラッチ操作をもう少し“軽く”できる余地があったということ。それで新たに“短い”新クラッチスプリングが採用されたのでした。ところがこの新しいクラッチスプリング、品番を調べるとRZ250/350やXJ400と共通部品だったのでした。
なるほど、2ストロークのRZシリーズやXJ400でも採用されていたスプリングならSR400であっても、そりゃ大丈夫そうだ……と想像できますが、ではSR”500″ではどうなのか? 結論からいえば、僕のSR500FIでは問題ありませんでした。RZ350のフルパワーを許容したクラッチスプリングですから、当然といえば当然ですが、興味深い点は、RZやXJ400の開発時(1980年頃)に採用されたこのクラッチスプリングが、どうして当時SR500/400にも採用されなかったのか?
また、その理由として、2気筒RZや4気筒XJと違い、“ビッグ”シングルでもあったSRの場合、発進時にクラッチを消耗させる乗り方をしがちなユーザーが多いのでは? ということへの配慮だったのではないか? ということ。つまりクランク2回転に一回、爆発の休みがある4stシングルの泣きドコロへの配慮でもあったのかも……ということ。
この問題、じつはSRに限らずあらゆるオートバイ乗りにとっての課題でもあります。つまり発進時の半クラ問題。この仕事を始めて20年以上経ちますが、これまで街角スナップに始まり、あらゆるイベントやミーティングで多くのバイク乗りを見てきましたが、発進時に必要以上に半クラ状態を続けている人が半数以上です。もちろん単気筒SRもご多聞に漏れず。
今回久しぶりにSRのクラッチ周りを整備したので、そのついでに半クラを多用しないクラッチ操作=発進時の操作についてあらためて考えてみました。
では次回。