ちょっと不便なところが癖になる。


『川魚水井』

ここは栃木県那須烏山市にある川魚屋さん。もうすでに創業してから100年を超えている老舗。つまり、戦後目黒製作所(戦時中に東京・目黒から疎開)の工場が稼働していた頃も当然現役の老舗川魚屋さん。そして、ここの向かいにはこれまた昭和風情をたっぷりと残した旅館ふくずみがあって、以前その旅館に宿泊したメグロZ7に乗る方が、翌朝エンジンをかけていると、川魚水井の旦那さんが出てきて「当時のメグロの音の特徴」を話してくれた、なんてハナシを聞かせてくれました。

聞けば、その旦那さん(水井忠さん)は若い頃にほぼ新古車のZ7に乗っていたそうで、ずいぶんZ7を懐かしんでくれたんだとか。那須烏山の町が目黒製作所で働く人たちのおかげで大いに賑わっていた1960年前後、まだ若かった忠さんは当時現役だったメグロZ7(500cc単気筒)を買ってもらい、その頃高級保養地でも知られていた鬼怒川温泉の旅館からうなぎやあゆの注文が入ると「やった、走れるゾ!」と、意気揚々とZ7で配達に出かけていたのだそうです。

現在、店を切り盛りするのは忠さんの息子の雅人さんで、これまたカワサキメグロ K2に乗るオートバイ乗り。そんなこともあってか、那須烏山が“メグロで町おこし”を始める以前から、ツーリング中に立ち寄るバイク乗りの方々も多いという、ちょっと変わった川魚屋さんがココ、水井さん。


川魚水井の看板商品は、うなぎとあゆ。どちらも絶品だけど、一尾260円というリーズナブルなあゆはツーリング中のバイク乗りにとってはソフトクリーム感覚で食べられて、小腹を満たしてくれるちょうどいい存在。つまり安くて、なおかつ食べやすい(立ち食いできてしまう)。炭火でじっくりと熱され、適度に脂が落ちた焼きたてのあゆは、頭から尻尾まで丸ごと食べられて、身もフワフワで驚くほどさっぱりしている。とくにアタマの部分はビックリするほどふわっふわ。

 


このあゆの塩焼きの美味しさがクセになって、ツーリング途中で必ず立ち寄るバイク乗りも多いんだそう。「〇〇時くらいに行くのでヨロシク」と、事前に電話注文をする常連の方もいるといいます。というのも美味しさの秘訣はあゆの新鮮さとその焼き加減。当然、炭火でじっくり……は重要ポイントで、注文から20〜30分ほど時間がかかるため、到着してすぐに焼きたてを食べたい常連さんにとっては、事前の電話もやはりマストなのだそう。


「バイクで町おこし」を掲げる市町村はいくつかありますが、ルーツがしっかりとある場所は全国でも珍しい存在かもしれません。

メグロ100周年記念本の制作を通して、今年に入ってからすでに8回? は訪れている栃木県那須烏山市、ちょっと面白くなりそうな町です。今年からバイク関連のふるさと納税も始まるようですし、訪れるたびに川魚水井さんのようなローカルでクラシックな食の発見もあって、通い始めた頃はアクセスの不便さに億劫な気持ちになることもあったけど、だんだんそれがクセになってきています(笑) 少しでも良い道はないものか……と思案するのもオートバイ乗りの楽しみですからね。

 

メグロとWを巡る旅、いよいよ終盤にさしかかっております。