[SR500F.I.]クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その3

[上]がSRでずっと使っているストレートタイプのクラッチレバー。[下]がいつから採用されているのか調べていませんが、僕の2010年式も含めた現行のSR純正クラッチレバー。いわゆるパワーレバーと呼ばれる、’80年代以降はリプレイスレバーの主流でもあるドッグレッグ・タイプですね。今やほとんどのメーカーで新車から採用されているドッグレッグ・タイプのレバーですが、僕はストレートタイプの方が好み。もちろん見た目の話ではなく。

■「クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その1」はこちら

■「クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その2」はこちら


ここでようやくブログタイトルの本題。みなさんはクラッチレバーの遊びをどのくらいに調整してますか?

僕のSRは(KZでも)、写真の状態でクラッチが完全に切れているくらいにしています。写真じゃホント伝わりづらいのですが……メーカーの新車(広報車)の調整状態が一般的だとすれば、それよりも少し遊びが少なめの状態。構造上、必要な遊びを確保した上で、写真のように人差し指と中指の第二関節が軽く曲がる程度、この状態でクラッチが切れるくらいに調整しています。一般的な感覚からすると、クラッチが繋がるのが“少し遠く”感じるあたり。できるだけ“深く握らず”にクラッチが切れるくらいが好みです。


指先だけで操作するためクラッチは軽いに越したことありません。ですが従来のクラッチスプリングに不満があったかといえば、そうではありません。

そもそもよく話題になる「クラッチが重たい/軽い」は、おそらく「軽い方が発進時に半クラ状態を維持しやすい=じわ〜っとレバーを放しやすい」という理由が大半だと思いますが、スムーズな発進で意識しなければいけないのは、クラッチというよりスロットル操作。


じわ〜っと恐る恐るクラッチレバーを放す(=半クラ状態が長い)ヒトがやりがちなのが、スロットルを開け回転を上げてからクラッチレバーを放していく操作。いわゆる教習所で習う坂道発進のやり方。エンストしたくない気持ちはわかりますが、スロットルを開けていればいるほど、いつクラッチが繋がるか不安で余計にジワ〜っとレバーを放す操作になりがち。しかもスロットルにもクラッチにもどっちにも意識を向けていないといけなくて意外と大変。それよりもよっぽど安心して発進できる操作手順は、後輪に駆動力がかかり、車体がスルスルッと押し出され始めるトコロ(=クラッチが繋がる場所)までスパッとクラッチレバーを放し、その後はスロットル操作だけで丁寧に発進する操作。

この操作手順に慣れてしまうと、半クラを多用することもなく、無駄にクラッチ板を消耗させることもなくなり、なおかつ丁寧なスロットル操作……意識的にはミリ単位で開け閉めするスロットル操作を覚え、スムーズな発進もスムーズな加速も微細なスロットルワーク次第!! という楽しいオートバイライフが始まる特典付き。つまりクラッチが重い/軽いはさほどストレスにならないのです(もちろん限度はありますよ)。


そんな時、僕にとってはクラッチレバーの遊びが少なめ=やや遠くでクラッチが繋がる方が操作しやすいんです。何が言いたいかというと、クラッチレバーの“遊び”ひとつとっても、正しい操作手順を知り、自分の好みが見つかるとよりバイクライフが楽しくなるというハナシ。ちなみにクラッチ板は約6万キロは使用していますが、まだ使用限界を迎えていなかった(というか、見た目にはほとんど磨耗していない)ので、新品も準備していましたが、ソッとそのまま戻しました。

ドッグレッグよりストレートレバーが好み……というのは、シフトチェンジ時のクラッチレバー操作においての話なんですが、長くなるのでまた次回。


このレバーは2年くらい使ったでしょうか? 軸の部分が長穴に変形していました。


とはいえ、せっかくクラッチを整備するのだからと今回400FI用のスプリングに交換しましたが、やはり軽いに越したことはありませんね!

[SR500F.I.]クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その2

写真ではプッシュレバー装着部分の“オイルシール上”に付くワッシャーが付いておりません……ハイ、装着時に忘れました。ご容赦を。

SRのクラッチ調整が手元(レバー部分)だけじゃないことは、もはやSR乗りならば周知のことですね……なんてエラそうに書いてますが、乗り出してから3年くらいまではじつは僕も知りませんでした。クラッチワイヤーをレバー側から追っていくと、クランクケース上部のシリンダー後方に辿りつきます。指で押さえているプッシュレバーと呼ばれるパーツのアーム部分が、クラッチレバーを握る=クラッチワイヤーを引くことで反時計側に引っぱられ、クラッチが切れる(=クラッチ板が離れる)わけですが、今回クラッチ周りをバラしたついでにその仕組みを写真に撮ってみました。

■クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その1はこちら


一番上の全体図の写真は、先ほどのプッシュレバーのアームの下の部分。つまりSRを真正面から見た時のクランクケース内部。

[上2枚の写真]がクラッチが繋がっている状態で、[3枚目の写真]がクラッチを切った時の状態になります。つまり3枚目の、プッシュレバーが45°ほど反時計方向に回転し、その分だけプッシュロッドを押している状態が、クラッチレバーを握りクラッチを切った時。順を追って説明すると……

1:クラッチレバーを握りワイヤーを引く

2:クラッチワイヤーにプッシュレバーのアームが引っ張られ、プッシュレバーが反時計側に回転する

3:回転したプッシュレバーが、プッシュロッド2(長い方のロッド)を押す

4:プッシュロッド2がプッシュロッド1(1円玉ほどのアタマが付く短いロッド)を押す

5:プッシュロッド1がプレッシャープレートを押し(=クラッチスプリングを縮めて)、クラッチが切れる(=クラッチ板が離れる)

というのが、一連の仕組み。

FI用のクラッチスプリングに変えると“クラッチが軽く”なる……その理由は、クラッチを切ることは、何枚ものクラッチ板を押さえ続けていた“バネを縮める”ことだから。


ここであらためてプッシュレバーの写真(モノクロ)。

マニュアルによれば、写真のように指でレバーを押し、クラッチの遊びをゼロにした状態で、赤線のようにプッシュレバーのアーム先端の中央とクランクケースに付く凸(ポッチ)が一直線上になる位置が正常な状態。僕も過去に経験ありですが、よくあるのはアーム先端中央が“凸部分より前方”に来てしまっている状態。その原因は、プッシュレバーやプッシュロッドの当たり面の磨耗とプッシュレバー位置の調整不足。そうした状態になると、いわゆる「クラッチが重たく」なり始め、クラッチの切れも徐々に芳しくなくなってきます。テコの原理でもあるので、ドラムブレーキのアームの角度と同じ話でもありますね。


プッシュレバーとプッシュロッドはこんな状態で、クラッチを切る度に、レバーがロッドを押す→戻るを繰り返しています。写真は今回交換したプッシュレバーですが、このように磨耗していきます。もちろんプッシュロッド側も。


プッシュレバーやプッシュロッドの当たり面が摩耗してくると、先ほどの正常な位置にならなくなってくるため、SRではプッシュレバーの“高さ”を変え、プッシュロッドとの当たり面を上下にズラす事で、何度か調整が効くようになっています。そのプッシュレバーの高さを調整するのが、偏心カムがついたアジャストボルト。ドライブスプロケット部分のカバーを外すと、プッシュレバーが入っている場所にプラスドライバーで調整するボルトが見えますが、コレが偏心カムが付くアジャストボルト。17mmのロックナットを緩め、時計回り/反時計回りに回すことで、偏心カムがプッシュレバーの高さを調整する仕組みとなっています。そのためSRでのクラッチの遊び調整(久しぶりの場合は特に)は、まずレバー部分ではなく、プッシュレバー側を確認してから……というのが正しい手順というわけです。

プッシュレバーと当たる側のプッシュロッド2の先端の磨耗具合。(奥が新品)

プッシュロッド1と当たる側のプッシュロッド2の先端の磨耗具合。(奥が新品)

同じくプッシュロッド2と当たるプッシュロッド1の先端の磨耗具合。(奥が新品)

偏心カムが付くプッシュレバー位置のアジャストボルト。もちろん奥が新品。

現在の走行距離は約11万キロちょっと。おそらく4万5000キロ時に500cc化した際に、クラッチ周りの部品も新品に交換されているはず(不覚にも未確認)なので、先日外した部品は約6万キロほど走行した後。ぞれぞれがそれなりに摩耗していましたが、アジャストスクリューの偏心カムが一番摩耗していました。でもココ、こんなに摩耗しますかね? 仕組みを知らない時代に、僕がグリグリと回し過ぎたんでしょうか?

次回へ続く。

 

 

[SR500F.I.]クラッチレバーの“遊び”、お好みは?? その1


2010年にSR400がインジェクション化された後、少ししてからクラッチが話題になりました。ある車種で、しかも最新技術が搭載されたわけでもないクラッチが話題になるなんて後にも先にもこの時くらいじゃないでしょうか。SR乗りの方はもう耳タコだと思いますが、この時の話題の主役は“クラッチスプリング”。


SRが誕生した1978年(もっといえば’76 XT500)から500/400共通でずっと変わらなかったクラッチスプリング[右/長い方]が、2010年のFI化とともに部品が[左/短い方]へと変更されました。SRのクラッチスプリングは全部で6個。組み付け時にはスプリングを挟むボルトを最後まで締め込みますが、従来の[右]長い方のスプリングだとどうやらプリロードがかかり過ぎていたようです。それがFI化とともにスプリングが見直され(線径は同じように見えますが鋼材の違いは不明)、要するにプリロードがかかる量が減ることで、クラッチ操作が“軽く”なり、キャブレターモデルに乗る多くのSR乗りがFI用スプリングに変えたことでちょっと話題になったのでした。

こちらは従来の旧クラッチスプリング。

面白いのはここからです。クラッチは軽いに越したことはない……とは誰でも思う事かもしれませんが、たまに見かける、信号待ちの間ずっと1速に入れた状態でクラッチレバーを握り続けているヒトの言う「クラッチは軽い方がいい」話は、今日の本題ではありません。

クラッチ(スプリング)の役割は、全開時でもクラッチが滑ることなくエンジンのパワーをミッションを介して後輪に伝えることですが、要するにメーカーの判断としてはインジェクション化したSR”400″に関しては、“それまでのスプリング”はオーバークオリティだったというわけです。つまりトルク/パワーに対してクラッチ操作をもう少し“軽く”できる余地があったということ。それで新たに“短い”新クラッチスプリングが採用されたのでした。ところがこの新しいクラッチスプリング、品番を調べるとRZ250/350やXJ400と共通部品だったのでした。

なるほど、2ストロークのRZシリーズやXJ400でも採用されていたスプリングならSR400であっても、そりゃ大丈夫そうだ……と想像できますが、ではSR”500″ではどうなのか? 結論からいえば、僕のSR500FIでは問題ありませんでした。RZ350のフルパワーを許容したクラッチスプリングですから、当然といえば当然ですが、興味深い点は、RZやXJ400の開発時(1980年頃)に採用されたこのクラッチスプリングが、どうして当時SR500/400にも採用されなかったのか?

また、その理由として、2気筒RZや4気筒XJと違い、“ビッグ”シングルでもあったSRの場合、発進時にクラッチを消耗させる乗り方をしがちなユーザーが多いのでは? ということへの配慮だったのではないか? ということ。つまりクランク2回転に一回、爆発の休みがある4stシングルの泣きドコロへの配慮でもあったのかも……ということ。


この問題、じつはSRに限らずあらゆるオートバイ乗りにとっての課題でもあります。つまり発進時の半クラ問題。この仕事を始めて20年以上経ちますが、これまで街角スナップに始まり、あらゆるイベントやミーティングで多くのバイク乗りを見てきましたが、発進時に必要以上に半クラ状態を続けている人が半数以上です。もちろん単気筒SRもご多聞に漏れず。

今回久しぶりにSRのクラッチ周りを整備したので、そのついでに半クラを多用しないクラッチ操作=発進時の操作についてあらためて考えてみました。

では次回。

 

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