なんだかね、ツーリングを予定した日の3日くらい前から、とにかく空気が冷たかった。雪国の方々には笑われてしまう話だけど、日差しは春らしいのに、気温は1桁前半台の朝から始まり、まさに寒波到来の前日のようだったけど、昼頃には日差しがあるハズだから大丈夫…と思って走り出したのだが、走行風の冷たさは春物の装いを許すものではなかったのだ。
今日は、もう30年来の旧友S・Iの誘いで、箱根方面へツーリングに出かける日。同い歳で同業だった彼は、1100カタナとかハーレーとか、こないだまではゼファー750、といろいろオートバイを乗乗り継いできたのだが、数年前から何か思い当たるコトがあったらしく、15年ほど眠らせたままの僕のBMWフラットツインR100を売ってくれと言ってきていたのだ。
無論、友人でもあるしタダで永久貸与してやるよ、と。ただし!……15年も眠らせてたので、再び動かして乗り出すには、それなりの修理・補修が必要、しかも知り合いに頼んでみっちりエンジンも車体もO/H&レストアをしてもらえば、お互いが死ぬまで乗れるハズ。だから、60万円ほど用意して、その知り合いに払ってくれ(…その知り合いも同い歳)、と。今では出版業界を去り、バー経営や内装関係などさまざまな仕事を経て、何かの訪問メンテナンスで生計を立てている彼だが「そんな余分の金はないよ」と言うから、「その“余分”がないなら、オートバイの趣味はやめた方がいいよ。そもそも、オートバイは余分で乗るもんでもないし…」と、僕は言った。
乗りたいから乗る、コイツに! ちょっとくらい苦労したって…みたいなトコロが欲しかったわけなのだが、それから1年ほどしたら「できたよ、60マン!」と。いよいよ本気でBMW乗りになるのかぁ、と思ったら、「じつはさ、いろいろ考えてさ」相変わらず、いろいろ考えるなぁ「でさ、W650にしようと思うんだ」いや、僕のは売らんし貸さんし「アテが出てきたんだよ、カリカリで…もう9割決めてる」ほな、早よせな……で、走行も少ないW650を、実車見聞&試乗のうえ手に入れたのだ。
そしたらそしたら、余分な金はないハズの彼が、マフラーだのハンドルだのタンクだの、とオクとカリのニラめっこを始め、驚くほど格安で手に入れどんどん付けていくから驚いた。どっから出てきた?その集中力とカネ。今はシート変更を画策中。
そんな彼が「どーしてもツーリングに行きたいんだよ!」行ったらええやん「いや、一緒に行きたい、行こ?」と言い出したのだ。いや、一人で行けってぇ「いや、一緒に行こまい!」同い歳だから60にもなるヤツが懇願するから、しゃーない行ったるわ……。
当たり前によく走ってきた道に、W初ツーリングの旧友と出かけた1日。R134を、夕日を背に逗子まで走る間、湘南海岸線の夕暮れの風情を堪能……海の向こうに、大きな富士山の夕焼けシルエットが毎日見えるんだな。道もそこそこ空いていて、ゆっくり流して、陽が沈んだ頃、コンビニで休憩、ホットミルクティを飲んだ。
「Wでは初めてのツーリングだったけど、こーゆー感覚は久々、というか、こんなに楽しい思いができるオートバイがあったんだな。ホントに60からの自分にピッタリだわ。W650に巡りあってホントによかったよ…」しみじみ語る友。
「W650は20年前から。W1系はもう50年前から。あるんだよ、そーゆーオートバイはね。見つかってよかったな」別に、W650やW1だけじゃない、そーゆーオートバイは誰にとっても1台はあるもんだ、と本当にあらためて実感した。