新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
さて、昨年12月に出しました「大人のコーナリング2」の内容に関するブログを前回書きましたが、今回はそのリアブレーキ考の第2弾です。まずはこのヤマハ’83TZ250の写真をよぉ〜く見てください……リアブレーキ・キャリパーからアルミ製のロッドが伸びて、スイングアーム・ピボットの下あたりに突っ込まれていますが、一体、これは何でしょうか??……リアブレーキ・キャリパーの“フローティング・マウント”といいますが、どんな仕組みなのか?? 何のために?
構造と仕組みを正確に説明しますと、リアブレーキキャリパーはリアホイールアクスルを中心に“自由回転”できるマウントプレートに装着されています。そして、そのままではリアブレーキパッドがリアディスクローターに摺動した瞬間に、キャリパーもローター回転方向に回ってしまうので、アルミ製トルクロッドを、後端はキャリパーに、そして前端はスイングアーム・ピボットの下方辺りのフレームに、それぞれピローボール・ジョイントを介して連結されています。
キャリパーをマウントするプレートは自由回転可能、そのキャリパーの回転を止めるトルクロッドはピローボールを介しているため完全固定の状態ではない…のでフローティング・マウントというのですが、では一体どんな働き・メリットがあるのでしょうか?……当時22歳の僕は、この’83TZ250からレーシングメカニックの真似ゴトを始めたのですが、このフローティングマウントのメリットが理解できなくて、リアホイール脱着のたびによく線画を描いて考えてました。それが、この“大人のコーナリング”でも多用している線画イラストの始まりでもあります……というわけでみなさんも、このリアブレーキ・フローティングマウントを、前ブログのような線画イラストをアタマで描いて考えてみてください。
その上で、一度アタマの中を整理しましょう……リアアクスルを中心軸として自由に回転するプレートにマウントされたキャリパーが制動を開始すると、摺動抵抗によってローターの回転方向=リアホイールの回転方向に回ろうとするチカラが働きます。この動きを止めるのが、通常はキャリパーとスイングアームを結ぶトルクロッドですが、前ブログでも説明したように、本来ならばそのチカラはそのままスイングアームを、ひいては車体をも押し下げるチカラとして働きます。
ところが、フローティングマウントのトルクロッドは、その前端がフレームの“後端”に取り付けられていて、フレームを下方ではなく後方(後ろ)に引っ張ります。しかもロッドは自由回転可能なキャリパー・マウントプレートや、ピローボール・ジョイントで連結されているので、キャリパーの取り付け位置や角度は、スイングアームの動きに関係なくフレキシブルに変化できます……だから“フローティング・マウント”なんです。つまり、キャリパーの摺動抵抗で生まれるチカラが、フレームを後方に引っ張る以外には働かず、“スイングアームやリアサスの動きに影響を及ぼさない”という仕組みなのです。
もう少し具体的な挙動でいうと、コーナー・アプローチ段階で前後ブレーキを駆使して制動したときに、通常のように車体を押し下げることはなく、フロント側のノーズダイブでリア側が上がり気味になっても、リアサスが自由に伸びることを可能にして、つねにリアタイヤを路面に接地させておく……結果リアタイヤのホッピング(ロック状態を繰り返す現象)発生を抑えることが狙いでした。加えて、フルバンクでのコーナリングで、スピード調整のためにリアブレーキを使用しても、フロントをはじめ車体全体への挙動や荷重に影響・変化を及ぼさない(…こちらが本来の狙いかも)…でした。
いずれにしろこのシステムも、湾曲スイングアームを用いないワークスレーサー’87YZR500まで(…’88YZR500からチャンバー容量増大やエンジン搭載位置の変更などから右出し2本チャンバーとなったために、トルクロッドを通すスペースが失われた)、そして市販250レーサーでは、’90TZ250からVツインエンジンとなることで、このフローティング・マウントというヤマハ独自の画期的なシステムも廃され、通常のスイングアーム・マウントとなり姿を消しました。また一般公道向け市販モデルには、ついぞ採用されることはありませんでした。
今から40年も前に登場した、リアブレーキにまつわる新技術で、今はお目にかかることもありませんが、当時の様々な技術的変遷の中から編み出された“叡知”に思いを馳せながら物理的論理をあれこれ考えているうちに、ある時いきなり全部がつながりを見せてくる、という醍醐味……じつはこれこそが“大人のオートバイ・ライディング”という趣味の世界の愉悦……と知っていただきたく、今後もこんなハナシをしていこうかと思ってますのでよろしくです。