[SR500F.I.]残念ながらブレーキドラムも消耗品!? その2


前回はずいぶん残念なお知らせになってしまいましたが、文句を言っても始まりません。イヤなら乗らなきゃいいだけ。さっさと気持ちを切り替え、むしろどのメーカーのブレーキシューがドラムへの攻撃性が高くないのか!? を追求しながら、定期的なハブ交換もSRライフの趣味性と割り切り楽しんだ方がいいかもしれません。でも当時モノのキャストホイールにおいては深刻。お金を出せば……なモンダイじゃありませんからね。そうはいっても悩ましいトコロです。

■ブレーキドラムは消耗品!? その1は→こちらへ。


その1でも書きましたが、かれこれ7〜8年前にワイズギア製キャストホイール (前後18インチ)を装着[写真左]し、その後フロント19インチ化にあたりフロントホイールだけスポーク仕様[写真右]となりました。じつは当初’79年SP仕様のキャストホイール(フロント)を入手し、前後キャストホイールでのF19インチ化を試しましたが、これがスポークホイールや現行のワイズギア製キャストホイールと比べると、イヤになるほど重たかった!! んです。

それぞれ重さを測ってみると、その差は約1〜1.5kg。数字にするとわずか1キロちょっと……な感じですが、走るとその重量増があらゆる場面で顔を出したのです。

1976 RD400 (輸出モデル)/ヤマハバイクブログより転載。

ホイール全体を鋳造することで、丈夫で高剛性、さらにチューブレス化も可能にしたキャストホイールは、’70年代後半に“ヤマハスポーツ新時代”のキャッチフレーズとともにヤマハが先陣をきって市販車に採用しました。海外モデルではまず’76年のRD400に、国内では’78年にXS750スペシャル、GX400/GX250、RD50から採用され、SRには’79年のSPモデルで登場。


二輪での鋳造ホイールの認可を国内で初めて受けたのがヤマハ。当時としては革新的な技術だったのでしょうが、現在の鋳造ホイールと比べるとやはりその重さはなかなかです。その証拠に、見た目はまるで変わらない現行ワイズギア製のキャストホイール[写真右]はスポークホイールと同等の重量で仕上げられています。

この1キロちょっとの重量増、想像以上にその影響を感じさせたのが、走行中のジャイロ効果として。鋳造技術や素材の問題だと思いますが、当時モノのキャストホイールはどうやら外周部分にもしっかりと重さがあるようで……これが走行中の回転数とともに“直進安定性”としての慣性力を発揮したのでした。直進安定性が増すということは、言い換えれば軽快性が損なわれるということ。どちらが優れているというハナシではなく、ホイールの重量差によるはっきりとした違い。直進安定性が増している方が好きなヒトもいれば、もう少し軽快な方が好きなヒトもいる……というだけのこと。ちなみに僕の好みは後者。

この違い……リアよりフロントの方が体感的にも影響が大きく、ホイール重量増のおかげで悪くなった路面追従性はタイヤの接地感を希薄にし、さらに直進安定性を増加させたジャイロ効果は、車体の傾きに応じてハンドルが“切れていく”ステアリング・レスポンスを鈍くする……スリムな単気筒SRの軽快さを楽しんでいた僕にとってはネガティブな要素でしかなかったのです。そのため、F19インチ化をしていた頃、フロントのみスポークホイールに変更したのでした。

そう思うと……“ヤマハスポーツ新時代”と銘打ってキャストホイールがデビューした当時、大型モデルではまだよかったのかもしれませんが、中型以下のモデルでの評判は実際どうだったのでしょうか!? SRでは’79年のSR500/400SPで採用されたキャストホイールは不評で、翌年スポークホイールが復活したなんて話も聞きますからね。


そんな経緯を経て、長いあいだRキャスト、Fスポークで走っていましたが、前回書いたリアのブレーキドラム磨耗問題で、リアホイールもスポークになり、そして現在はフロントを再度18インチに戻し、それに伴いRスポーク、Fキャスト(ワイズギア製)になりました。なんで今度はフロントだけキャストなの!? も含め、続きはその3で。

続く。

[SR500F.I.]フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!? その3

■ピストンシールの動き/役割(剪断変形)を表した簡易イラスト。[左]ブレーキをかけていない(油圧でブレーキピストンが押し出されていない)時のピストンシール。[右]ブレーキをかけた(油圧でブレーキピストンが押し出されている)時のピストンシールの状態。※イラストの手がピストンだと想像してください。
つまり、ブレーキをかけている時=油圧でピストンが押し出され、ブレーキパッドがブレーキディスクを挟んでいる時、ピストンシールは[右]のイラストのように“変形”しているということ。

ピストンシールの剪断(せんだん)変形によって、油圧で押し出されたピストンを元の位置に戻すピストンシールの“ロールバック”作用。要するに、この作用が7〜8年使用した(マニュアルでの推奨交換時期は4年毎)ピストンシールを新品に交換すると“どう変化”するのか!? が、今回の楽しみな部分。その1からずいぶん引っ張りましたが、ようやく本題。

その1は→コチラへ。

その2は→コチラへ。

 

左列の分厚い方がピストンシール。右列の薄い方がピストン・ダストシール。

幅・厚みはわずか3mm程度のピストンシール(左側)。ピストンシールの役割を理解したとはいえ、キャリパーから外したピストンシールは見た目や手触りでは明らかにゴムが劣化・硬化した印象はなかったため「ホントに何か変わるの!?」と半信半疑。ところが、ピストンシール交換後の試乗ですぐに違い・変化を実感できたのです。

※写真でわかりやすいように素手で3本指で握っているだけで、こう握りましょう的な意味ではありません。

と、ここで重要なのが「ブレーキのかけ方」
たとえば信号で止まるとき。はじめはジワ〜っとかけ始め、停止する最後に強く握る……そう操作しているヒトも多いんじゃないでしょうか。いや、僕も長いあいだそうでした。いわゆるクルマで言うところのカックンブレーキ。停止する最後にブレーキペダル強く踏んでしまうと車体がガックンとなるアレです。オートバイの場合はリアブレーキも使うので、さすがに停止時にガックンとまではなりませんが、操作の仕方、そして頭で考えるブレーキのかけ方という意味では、僕もずっといわゆる徐々に強めていくカックンブレーキ側でした。しかし、これがそもそもの間違いで、正しい(不安・恐怖を感じない)ブレーキ操作の順序としてはまるで“逆”だったのです!?

以前のブログ→抜き側でブレーキを使うでも書きましたが、覚えているヒトはいないと思いますので簡単におさらい。

 
数年前に社外のアップハンドルに合わせて付けていたメッシュホースから、ゴム製のカワサキW650用純正ブレーキホース(アップハンドル仕様)に変更した理由が、まさに「抜き(離し)側でコントロールするブレーキ」の使い方をマスターするためでした。ちなみにこのブレーキホース、SRの純正500用アップハンドルにジャストフィットです。

ブレーキホースをステンレスメッシュからゴム製に変更する最大の理由は、ブレーキのレスポンスを遅くすること。言い方を変えると、ブレーキレバーのストローク量(レバーの遊びがなくなりブレーキが効き始めたトコロから、フルに握るまでのレバーの動く量=距離=時間)を増やすことが目的。メッシュホースからゴムホースに戻すと、当然ながら効き始めからしっかり効くまでの時間(レバーの動く量=距離)が、メッシュホースに比べて“増える”ワケです。ゴムホースに戻す理由は、その“時間”が欲しかったから。フツーはレスポンス向上を求めてゴムからメッシュに、が一般的ですけどね。

 


最初に強くかけ、徐々に緩めて(離して)いくブレーキング。

コーナー手前での減速。これまでどおりの“徐々に強めていく”ブレーキングでは、どうしてもフロントタイヤに荷重が残り、それがそのまま不安や恐怖に変わる。じゃあもっと手前でブレーキングを終わらせてしまえばいいとなりますが、それでは減速し過ぎてしまったりタイミングが合わなかったり……ところが!? この“抜き(離し)側のブレーキング”をマスターすると、そんな恐怖や不安からすっかり解放されたのです。

ブレーキのかけ始めでしっかりとレバーを握り、コーナーに差し掛かる辺りではレバーを離していく=徐々に緩めていくブレーキング。速度調節という意味では同じなのに、これまでとはっきり違うのは、フロントタイヤにかかる荷重が徐々に抜けていくこと。 ブレーキのかけ方を“逆に”するだけで、恐怖感がなくなったのことにはずいぶんと驚かされました。


ですが、この“離し側のブレーキング”……最初にガツンッと強くブレーキをかけることが、慣れないうちはとにかく怖い。以前、鍛錬特集をしたストバイでもお伝えしましたが、操作に慣れるまではコーナーではなく直線でひたすら練習。通勤途中の赤信号で止まるところから始めたものです。


つまり、ステンレス・メッシュホースだと、レバーをフルに握ってから徐々に離していく緩めていくまでの時間=距離=レバーの動く量あまりにも少なく、まだ“離し側のブレーキング”に慣れていない僕が練習するには難易度が高かったのです。そこで、練習のためにあえて膨張によるレバーのストローク量=動く距離=時間が増えるゴムホースに戻してみた……というワケでした。当然、慣れればストローク量の少ないステンレス・メッシュホースでも“離し側のブレーキング”は可能です。

スポーティに走ることや上手に走ることにおいて、性能が良いパーツに変えることも重要なポイントだと勝手に思っていましたが、一つ一つの操作にゆとりがあることも、仕組みや構造を知り、感じるには重要だった!? とは目からウロコでした。


そして!! いやようやく!? ここで登場するのが新品に変えたピストンシールによる変化と効果。なんと、この徐々にブレーキングを緩めていく時の実感がこれまで以上に“はっきり”と増えたのです。


どういうことかといえば……まるでレバーを離していくと同時に、ブレーキパッドがディスクローターから徐々に離れていくのがわかる!!……ような感覚。またその伝わってくる実感が驚くほどきめ細やか。

例えば……ノーブレーキ=ピストンシールが変形していない状態を0(ゼロ)フルブレーキ=ピストンシールが最大に変形している状態を10だとします。

7〜8年使用したピストンシールがその変形度合いを5分割で伝えてくるとしたら、新品のピストンシールは10分割の緻密さでその変形度合いを伝えてくる感覚。ピストンシールのゴム自体がずいぶんと柔軟で緻密に変形しているのが見事に伝わってくるのです。

ブレーキのかけ始め、緩め始めの、ほんのわずかな「強めた」「緩めた」という、レバーの握り具合がそのままオートバイへ反映されているのが実感をともなってはっきりと伝わってくるため、より細やかなブレーキコントロールがしやすくなったのです。

 

こうなると……“離し側のブレーキング”のさらなる利点がより利用しやすくなり、グッとコーナリングが楽しくなるのですが、それはまた次回。

鍛錬や練習というとストイックですが、ブレーキのかけ方ひとつで、また長いあいだ楽しめるからオートバイはやめられません。

 

 

 

[SR500F.I.]フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!? その2


[前回の続き]
ブレーキキャリパーのオーバーホール……そもそものきっかけは、じつはディスクローターの交換でした。

「フロント・ブレーキキャリパーのオーバーホール……で、何が変わる!? その1」は→コチラへ。

 


かれこれ10年使用したサンスターのディスクローターが、今年に入りいよいよ摩耗限界。効き具合は純正同等でスタイルは“孔なし”の初期型ルック。効き目もルックスも気に入っていたのでまたリピート……と思っていたタイミングで、今年の春にサンスターから新製品が登場したため、今回はそちらを使ってみることにしました。

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現在多くのユーザーがノーマルルックのまま楽しんでいるFinal EditionのSR400。

いまでこそノーマルルックでSRを楽しむユーザーが大半ですが、じつは10年ほど前まではSRをノーマルルックのまま乗るヒトなんてほんのひと握り、相当マニアックな存在でした。

ひと昔前までは、乗ると誰もが「いいバイク」と認めるのに、ほとんどのヒトがその後乗り換えてしまうオートバイでもあったSR。最大の理由は、その排気量から中型免許取得後に乗る一台目のオートバイに選ばれやすいため、大型免許を取るとどうしても大排気量車にステップアップしたくなること。もうひとつは、オートバイの原点ともいえるシンプルな単気筒エンジンと、誰の目にも“ザ・オートバイ”と映るそのベーシックな佇まいがゆえに、しばらく乗ると、ツインやマルチ、はたまたオフローダーやアメリカンなど、“違う個性”をもつオートバイにも興味が湧いてしまうこと。

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1984年に発売されたCYCLE WORLD別冊のムック「The SR」(CBS・ソニー出版)より

おまけに’80年代のブリティッシュ・カスタムブーム以降、あらゆるカスタムのベース車両としても人気だったこともあり、SRをそもそものスタイルのまま“長く乗り続ける”ユーザーは少なかったのでした。まぁ、だからこそ40年以上も世代を超えて人気を獲得し続けたワケでもありますが……

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2011年6月号のSTREET BIKERS’。この頃巻頭で特集していた「オートバイ感」の第2回目で、登場したばかりのFI/SRで“SRそのものを愛でる”企画をスタート。


そんな歴史もあり、今から約11年前、SRがインジェクション化されたタイミングとともにストバイ誌上であらためて“SRそのもの”を楽しもうと、“あえてのノーマルルック”企画を打ち出したワケです。まだ月刊の頃ですね、懐かしい。

2011年6月号の撮影時に購入したSRも12年目に突入。

それこそ旧車ミーティングでも、初期型(1978〜1984)のSRが停まっていると「オッSRもいいねぇ」なんて話題になるのに、現行モデルのノーマルSRだとさほど注目されない。その違いは何なのか!? というワケで、「目指せ初期型ルック」からスタートした2010年式SR/FIのモディファイ。

フロントホイールは19インチ化し、フロントフォークのフォークブーツは外しダストシール化、さらにストバイweb shopでも好評の初期型風IKONサスペンションを企画・製作し装着。ワイズギア製のクラシックタイプ・シートに加え、初期型ナロータイプ・タンクへの大改造(その他にも改良点多数)……どれもこれももう10年以上前のことですが、おかげさまで旧車ミーティングでも「初期型?」なんて言われることも多く、SRが誕生した時代感=“’70年代のオートバイらしさ”を楽しんでいたものでした。

※企画の本当のネライは、もちろん見た目だけのハナシではなく、“SRの魅力の本質”を考えなおすこと。ストバイ時代の連載やSR特集、はたまたその後のムックでも書いてきましたが、まだまだ続きがあるため、現在第2弾ムックを企画中です。

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前置きがずいぶんと長くなりましたが……そうした“あらためてSRそのものを愛でる”活動にサンスターさんも共感してくれて誕生したのが、初期型ルックのディスクローターでした。

[左]が約10年前にリリースされた、1978〜’84年モデルに採用されていたフロント・ディスクローターのデザインを踏襲したTRADブレーキディスク(初期型リプレイス用のオフセット仕様もアリ)。[右]が今春リリースされた、そのTRADシリーズの多孔タイプ。

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初期型ルックの“孔なし”デザインが魅力だったSR用のTRADディスクローターに、どうして“多孔”タイプが登場したのか……といえば、サンスターさんによると、今回の一番の目的は、“ブレーキング時の鳴き”抑制だったといいます。ご存知のように、ディスクブレーキが採用されはじめた’60〜’70年代の多くの旧車のディスクローターは“孔ナシ”でした。’70年代後半くらいから孔あきタイプが登場しはじめますが、そもそもその理由は何だったのか?

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サンスターさんによるとその答えは、大きくわけて「放熱性」「軽量化」「水捌け」「パッドのカスの除去」。ブレーキパッドがディスクローターを挟み、そこで発生した摩擦熱により制動力を発揮するディスクブレーキ。ある程度の摩擦熱が発生しないと制動力が生まれないディスクブレーキですが、一方で高温になり過ぎると、フルードが沸騰しフルード内の気泡により油圧が効かなくなったり、パッドやローターが変形してしまうこともあるといいます。

ディスクローターに孔を開けることで、表面積が増え放熱性は向上し、軽量化にも貢献、さらに雨天時にはタイヤの溝のような役割も果たし、パッドのカスの除去にも役立つ……どれか一つのために孔やスリットが加えられたのではなく、どれもが重要な目的だったのだそう。さらに、このなかの「パッドのカスの除去」が、ディスクブレーキの鳴きの抑制にも大きく貢献するのだといいます。

 


当然、SR用の初期型風“孔なし”デザインのTRADシリーズは、飛躍的に進化した現行車のブレーキシステムと材質の向上により可能となったワケですが、パッドのカスが誘発することもある“ブレーキの鳴き”を完全にクリアするのは至難のワザ。とはいえ、旧車のようにキーキー鳴り響くワケじゃありませんが、僕も10年使用するなかで何度か経験しました。でもその都度、パッドを外しキャリパーを清掃するだけでその後はまた長期間鳴かなくなるので、さほど気になりませんでしたね。むしろトラディショナルなスタイルなのに、現行車と同等の効き具合の恩恵の方が魅力でした。

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現在は’70年代のオートバイらしさとともに、古き良きヤマハ・ハンドリングをSRでも楽しむ!!  ……を目標にスポーツ・ハンドリングを追求し、鍛錬&セッティング中のSR。そんな“いまの感覚的”には、初期型風トラディショナル・スタイルよりも、少し性能向上を図った雰囲気の多孔タイプがピッタリだったワケであります。ちなみに、フロント周りのレスポンスを探求中で、少し前にFホイールは18インチに戻したところ。なぜフロントだけキャストホイールなの!? なギモンはまた次回。

なんだかんだと長くなってしまいましたので、本題のピストンシールを新品に交換した効果!? については、その3で。

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